タレントの倉持由香さんは、プロゲーマーのふ~どさんと2019年に結婚。もうすぐ4歳になる長男・湊くんは、自閉スペクトラム症と診断されています。自閉スペクトラム症は、脳の働き方の違いによって起こるもので、たとえば目と目が合わない、笑いかけても笑い返さない、指さしが少ない、模倣が少ない、言葉の発達が遅い、こだわりが強い、感覚の過敏さなどが見られます。
「たまひよONLINE」では、2024年7月に倉持さんに、自閉スペクトラム症と診断されるまでのことや公表にいたった経緯などをインタビューしました。あれから約1年、湊くんは今春、保育園の年少クラスになりました。倉持さんに現在の湊くんとの暮らしについて聞きました。全2回インタビューの後編です。
ソファでジャンプする理由が理解できて、子育てのイライラが減った
倉持さんは、2024年5月「児童発達支援士」の資格を取得しました。「児童発達支援士」は、民間の資格ですが、この資格を取るには発達障害に関する専門知識や療育、子どもの力を引き出すアプローチについて勉強が必要です。
――「児童発達支援士」の資格を取得した理由を教えてください。
倉持さん(以下敬称略) 湊が自閉スペクトラム症と診断されたのは2歳のときですが、診断直後は「この先、どうなってしまうんだろう・・・」と不安でいっぱいでした。しかし時間がたつにつれ、湊のことをきちんと理解したいと思うようになったんです。
そこに行くつきまでには、夫から「何もしなければ時は進まないよ。湊にどんな特性があるかを理解して攻略し、“湊の攻略本”を作っていくことが大事」と言われたことが大きかったです。
たとえば湊は、ソファの上でぴょんぴょんジャンプするのですが、自閉スペクトラム症について学ぶまでは「なぜ?」と思いました。いくら「ダメ!」と言っても聞かずにイライラしたこともあります。幼児用のトランポリンもあるのに、湊はなぜかソファでジャンプをするんです。湊のことを少しでも理解したいと思い「児童発達支援士」の資格を取ろうと思いました。
資格取得に向けて勉強するうちに、湊がソファの上でジャンプするのは、不快な刺激やストレスを軽減して、気持ちを落ち着かせようとするなど、意味があることがわかりました。湊の行動の意味がわかってから、私自身、子育てのイライラも減りました。
――「児童発達支援士」の資格を、この先、どのようにいかしていこうと考えていますか。
倉持 今は湊のことで手がいっぱいですが、格闘ゲームのプロゲーマーである夫は業界の中でも年長者なので、いまは若手の育成に力を入れているんです。中学生のプレイヤーが親御さんと一緒に家に来てくれて練習することもあります。そのサポートを一緒にしていきたいですね。
また、発達特性のある子は学校でなじめず不登校になってしまうことも多くあり、ゲームに夢中になる子もいるんです。私自身もずっと不登校だったのですが、ゲームコミュニティに出会えたことで友人や夫と出会い人生を救ってもらえました。学校だけが世界のすべてではないので、ゲームを通じてお友だちとかかわる世界があってもいいと私は思っています。私の経験や学んだことをいかして、生きづらさを抱える方々がゲームコミュニティの楽しさに触れてくれたりするイベントを開催したいなと考えています。
続きを読む
「うちらがいるんだから、社会から排除なんてされないよ!」と夫に言われ、前向きに
湊くんは、保育園の年少クラスです。倉持さんは、少しずつ就学のことも考え始めているそうです。
――湊くんの就学についてはどのように考えていますか。
倉持 保育園の年少クラスなので具体的にはまだ考えていませんが、湊に合う学校を選びたいとは思います。無理をさせて、定型発達の子と同じような道を歩ませようとは考えていません。
湊は、もうすぐ4歳になりますが、言葉の発達がゆっくりなので「そら」「ひこうき」「あり」など一語文しか話せません。
先日、引用リポストで「小学生になっても話せないと社会から排除される」といった反応が届いたんですよ。夫に相談したら「うちらがいるんだから、社会から排除なんてされないよ!」と言われて、湊のいちばんの味方になってあげられるのは私たちなんだと改めて感じました。
私たちがこの先もずっと湊の味方で居続け、力になってくれるまわりの方々への感謝を忘れずに過ごしていけば「社会から排除される」なんて悲しいことは起こらないと思います。
先ほども話しように、湊が自閉スペクトラム症と診断されたときも夫の言葉で前向きになれました。夫はいつでもポジティブな言葉を返してくれるので、ハッと気づかされることが多いですね。
――湊くんの子育てについて教えてください。夫婦で分担しているのでしょうか。
倉持 うちは、夫婦ともに得意なことと、苦手なことがはっきりしているんです。私は、学生のころから国語や倫理は得意だったんですが、世界史はいくら参考書を読んでもまったく頭に入ってこなくてセンター模試で8点を取ったことも・・・。苦手なことはお手上げ状態です。
同じ時間に起きて同じ場所に行くことができなくて不登校だったこともあり、湊を保育園に連れて行くのはほぼ夫です。でも夫は、家事や登園準備、書類を提出したり、持ち物に名前を書くような作業が苦手なので、それらは私がしています。
うちは夫婦ともに苦手なことは、お互いにフォローし合って、感謝しようという考え方です。
夫婦でフォローし合えないものは、便利なものやサービスをガンガン利用しています。
たとえば湊は偏食が多くて、せっかく作った離乳食や幼児食もお皿をひっくり返してしまうので、こちらがショックを受けないように私はほぼベビーフードを使っていました。「手作りじゃないと愛がない」なんて、いまだに言う方もいますが、食品メーカーさんが研究を重ねた栄養バランスばっちりのベビーフードを買うのも愛だと思います。
発達に特性があると、子どもに振り回されて疲れてしまいがちですが、ママ・パパのメンタルを保つための工夫が絶対大切だと思います。
家庭の空気がギスギスしてしまうと子どもにも影響が出る可能性があるので、そうならないようにしたいですね。
――自閉スペクトラム症だと、得意なこと・好きなことがはっきりしている子もいますが、湊くんはどうですか。
倉持 絶対これ!というのはまだありませんが、私と夫の影響なのか、ゲームのキャラクターはよく覚えますね。
とくに任天堂のキャラクターが大好きで、マリオや星のカービィ、ピクミンのキャラ名は発することができます。
絵を描くのも好きなんですが、湊は感覚過敏があるのかクレヨンなどで手が汚れることを嫌がります。そのためiPadなどを使ってお絵描きをしています。自分で色を変えたり、ブラシを変えるなど器用に使いこなすので驚きます。
この間は、私のまねをしたのか完成したらjpgデータで書き出していました(笑)
一緒にたくさん遊びながら、湊が夢中になれることや得意なことを見つけてあげたいと思っています。
続きを読む
お出かけのときは、ベビーカーにヘルプマークを
ヘルプマークとは、外見からはわからなくても、援助や配慮が必要なことを周囲に知らせるマークです。湊くんもベビーカーにつけています。
――湊くんは、お出かけのときヘルプマークをつけているようですが、つけようと思った理由を教えてください。
倉持 湊は、発達の特性で突然パニックになったり、大きな声を出したり、走りだしてしまうことがあります。そのため外出するときはいつもベビーカーなので、ハンドル部分にヘルプマークをつけるようにしました。
以前、エレベーターに乗っていたところ、湊より大きな女の子が「この子何歳? 大きいのにベビーカーに乗ってるよ」「歩かないなんて変なの〜」と話しかけてきて。一緒にいたパパさんがヘルプマークに気づいたようで女の子に「いろいろな子がいるんだよ」と話していました。
ぱっと見ただけではわからなくても、本当にいろいろな子がいるんだよ〜ってことが多くの方に知ってもらえたらいいですね。
――発達障害は外見ではわからないですよね・・・。
倉持 外見でわかりにくいからこそ、発達特性で動きまわったり、パニックを起こしたりしていると「しつけの問題」と言う方もいるんです。
発達障害は、脳機能の発達が関係する障害なので、しつけの問題ではありません。
もちろん少しでも改善するように注意は毎日していますが、多動や他害がしつけでどうにかなるなら、どうにかしたいですよ・・・。
「しつけが悪い」の言葉を投げかけられて苦しむママ・パパがいることも、心の片隅に置いていただけたらうれしいです。
続きを読む
夜、なるべく早く眠るように公園へ
湊くんは睡眠障害があり、夜、なかなか寝つかないのが悩み。そのためなるべく公園で遊ばせて、体力を使うようにしています。
昆虫が大好き
湊くんは昆虫が大好き。公園に行くと虫探しに夢中に。ありを見つけると「あり!」と言って、にっこり笑顔に。ずっと観察していることも。
+1Fのファミリーモデルに
格闘ゲーマーのためのアパレルブランド「+1F」のモデルを家族で。キッズラインがかわいくて、倉持さんもお気に入り。湊くんは、カメラ目線を送るのが大変でしたが、やりとげました。
お話・写真提供/倉持由香さん 取材・文/麻生珠恵、たまひよONLINE編集
続きを読む
発達障害の可能性がある子は、35人クラスだと3人程度はいるといわれています。倉持さんがSNSや取材などで、湊くんのことを発信し続けるのは「発達障害で生きづらさを抱えている子どもたちやママ・パパたちがいることを知ってほしいから」と話します。
「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。
倉持由香さん(くらもちゆか)
PROFILE
千葉県船橋市出身。グラビアアイドル、タレント、俳優として活躍。2019年、約10年間の交際期間を経てプロゲーマーであるふ〜ど氏と結婚。2021年、長男の湊くんを出産。2024年、湊くんが自閉スペクトラム症であることを公表した。
●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2025年4月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。
記事一覧に戻る