北海道小児膠原病の会代表を務める、さくましほこさんのお子さんは、小学生のときに小児膠原病の1種である全身性エリテマトーデス(以下SLE)と診断されました。
さくまさんに、小児膠原病(※)がわかったときのことや子どもへの説明、普段の生活で気をつけていることなどを聞きました。全2回インタビューの前編です。
※「小児膠原病」は一般的な病名ではなく、小児期の膠原病のこと。北海道小児膠原病の会で使用している言葉。
「走るのが遅くなった?」「よく眠る」などの違和感が
さくまさんの子どもが、膠原病の1種であるSLEと診断されたのは小学生のときです。膠原病は、免疫機能の異常により全身の結合組織に炎症が起こる自己免疫疾患で、関節に炎症が起こる「若年性特発性関節炎」、皮膚、腎臓、肺などさまざまな臓器に炎症が起こる「全身性エリテマトーデス(SLE)」、皮膚と筋肉に炎症が起こる「若年性皮膚筋炎」などがあります。
小児期の膠原病は、大人よりも症状の進行が早く、重症化しやすい傾向があります。
――SLEと診断されたときのことを教えてください。
さくまさん(以下敬称略) きっかけは毎年行われる、小学校の尿検査です。検査で再検査になり、2回目を受けました。再検査でも異常が見つかり、かかりつけの小児科を受診したところ、さらに検査を重ねることとなり、専門の病院を紹介されました。
専門の病院では、考えられる3つの病気を挙げられました。その中に、のちに診断されることになるSLEも入っていました。
私も夫も医療職者です。3つの診断名を聞いたときに、どの疾患も完治が難しいと知っていたので、目の前が真っ暗になりました。
とくにSLEは、具体的な将来像を思い描けない面もありました。しかし、いろいろ調べる中で、教科書的に示される予後や数値は、あくまでも目安であるということにも気づいたんです。
――学校の尿検査で異常が指摘される前に、何か気になる様子はありませんでしたか。
さくま 娘はテニスにも興味をもち始めていた時期で、テニスをする姿を見たときに「あれ? こんなに走るの遅かった?」と思ったんです。
またそのころのことを振り返ると、よく寝ていました。朝、起こしてもなかなか起きなかったのですが、新学期が始まった時期だったので、私はそれを「春だから眠いのかな?」「新しい環境で疲れているのかな?」と思っていました。今は、それが症状のけんたい感だったとわかります。
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腎生検を行い、SLEと診断
子どもは専門の病院で、腎生検を行いSLEと診断されました。
――検査について教えてください。
さくま 腎臓の組織の一部を採取して、顕微鏡で組織の状態を詳しく調べる腎生検を行いました。その結果、SLEと確定しました。
――病気のことは、子どもにどのように伝えましたか。
さくま 膠原病は自己免疫疾患です。子どもには「人間の体は、体に悪いことをするものを攻撃するものだけれど、あなたは自分の体をばい菌と思ってしまって攻撃する病気になってしまったの。この病気は一度なってしまったら完治は難しいけれど、お薬を使うことで、またみんなと遊んだり、学校に行ったりできるよ。やりたいことができるように、ママもパパも頑張るから、一緒に頑張ろう」と伝えました。
そして「あなたが悪いわけではない。だれも悪くない」と伝えました。
でも、小学生の子どもにとっては「この世に治らない病気がある」ということを知った驚きと、自分がその病気にかかってしまったというショックは大きいものでした。
その後、治療のために入院している間に、病院内でいろいろな子どもと話す機会があったようで「この世の中には、治らない病気がいっぱいある」ということが、しだいにわかっていったようです。
また医師からは「今、あなたの腎臓は山火事のようになっているんだよ。だから火を消すために点滴をするよ。火が消えたように見えても、くすぶっているから、再び延焼しないように飲む薬も続けるよ。頑張ろうね」というように山火事を例にとって説明されました。
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疲れをためないように早く寝て、紫外線対策を
SLEを悪化させないためには、薬の服用だけではなく、生活面でも注意が必要です。
――生活上でどのようなことに注意が必要なのでしょうか。
さくま 膠原病には、さまざまな症状があります。
うちの子の主な症状は、強いけんたい感です。そのため疲れをためないように、家族みんなで早寝の習慣をつけました。受験のときにも夜ふかしすると、「早く寝なさい」と口酸っぱくして言っていました。
また、子どもたちが幼いこともあり、塩分をとりすぎない食事作りを続けることにしました。
離乳食のような薄味にほんの少し塩分をプラスするイメージです。そのころのわが家は、月1回家族で外食をしていたのですが、家族みんなが楽しみにしていたので、外食は続けることにしました。
きょうだいたちには「疲れやすくなる病気で治らないことや、薬を飲む必要があり、その薬はとても苦くて、本人は楽しい気持ちではないこと。
そして、風邪をひきやすいからみんなもウイルスを家に持ち込まないように、手洗いやうがいをちゃんとしてね」と伝えました。
――ほかにも注意したことはありましたか。
さくま SLEは、直射日光(紫外線)を浴びると病勢が増す可能性があります。
そのため日焼け止めは、1年中欠かせません。子どもの病気がわかった後からは、日焼け止めを塗ったり、日傘をさして登下校するようにしました。でも、日傘をさしている小学生はいないので、嫌がっていました。子どもだからこそ「自分だけ・・・」という状況は、なかなか受け入れられなかったようです。
家の中では、日焼け止めクリームを塗らなくてもいいように、カーテンは紫外線をカットするものに変えました。
進学先の学校では、長そでの制服を着用していました。大人になるにつれてまわりも紫外線を気にするようになったり、長そでの制服を着用している子がいたりして、「自分だけではない」と思え、気持ちが楽になったようです。
――さくまさんが代表を務める北海道小児膠原病の会の公式サイトでは、膠原病の説明について10歳ぐらいの子でもわかるように記されています。
さくま 疾患によっては、紫外線を避けなくてはいけなかったり、けんたい感や体調の波によって「なまけている」と勘違いされてしまうこともあります。ママ・パパも学校の先生に事情を説明すると思いますが、成長とともに子ども自身で「何ができて、何ができないのか」「どんなサポートが必要か」を伝えなくてはいけなくなります。
また祖父母などから、病気について理解を得られないというケースもあるので、あらゆる世代の人たちに理解してほしくて、ホームページではわかりやすいように記しています。
私の子どもは、今1人暮らしをしていますが料理上手になり、自炊しているようです。「野菜をゆでて、小分けにして冷凍保存しておくと便利だよ」と教えたら、「いいね!」と言って実践しています。
診断を受けたときには、将来の姿が想像できずにいましたが、今は巣立つ姿を頼もしく見守っています。
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【小林先生から】SLEは、しばしば小児期にも発症する
全身性エリテマトーデス(SLE)は膠原病の1つで自己免疫によって起こります。自己免疫とは本来細菌やウイルスなどの異物を攻撃する免疫が自分の体を攻撃してしまうことで、その原因はまだわかっていません。
SLEでは自分の体のさまざまな成分に対する抗体(自己抗体)ができ、神経系、腎臓、皮膚、関節、肺、肝臓などあらゆる臓器や血球に障害を生じますが、どこに障害が生じるかは患者さんによって異なります。頬の紅斑(蝶形紅斑)は多くの患者さんに認められ病名の由来となっています。またシェーグレン病など、ほかの膠原病を合併することもあります。若い女性に発症することが多く、しばしば小児期に発症します。
小児期発症の患者さんでは成人に比較して腎炎を合併することが多いとされています。尿検査に異常がなくても腎生検で異常が見つかることもあり、そのタイプによって治療の強さも変わります。診断後早期に十分な治療をするのが原則で、そのため入院が長期化するケースが多くなります。ステロイド薬による治療で生存率は大幅に改善しましたが、ほかの免疫抑制薬の併用でステロイド薬の副作用を軽減する工夫がされています。
一方、免疫抑制薬によって感染症に弱くなってしまうため感染症への注意が必要です。
インフルエンザやHPVワクチンなどの不活化ワクチンは通常どおりに受けられますが、生ワクチンに関しては使用している薬剤によるので主治医との相談が必要です。紫外線が増悪因子になるため、日焼け止めの使用や服装の注意も重要です。新しい薬も開発されており、生命はもちろん生活の質も改善することが期待されています。
お話・写真提供/さくましほこさん 監修/小林一郎先生 協力/北海道小児膠原病の会 取材・文/麻生珠恵、たまひよONLINE編集部
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さくまさんは「子どもが疾患をもつということは、大変なことです。でも不幸ではなかったです。目の前が真っ暗になった私が『この子の先の人生で起きることは、だれもわからない。だからこそ、この子は人生を作っていける』と気がついてよかったと思います。そして『この子が今、幸せに生きているか』を、子どもを見る軸にできたことが、私の子育てにおいて得た宝物」と話します。
「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。
さくましほこさん
PROFILE
北海道在住。看護師。子どもがSLEを発症し、付き添い入院を経験。その経験から「疾患のある子ども同士、きょうだい同士、保護者同士の集える場の必要性やよき理解者に恵まれる環境づくりの重要性」を考えるようになる。「疾患のあることはマイナスじゃない」と、子ども自身が思い、将来に希望をもち、小児期から疾患のある子どもの社会的自立を願い、2021年 北海道小児膠原病の会を立ち上げ、代表を務める。
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小林一郎先生(こばやし いちろう)
PROFILE
北海道大学大学院医学研究院 生殖・発達医学分野 小児科学分野 客員教授。KKR札幌医療センター 小児・アレルギーリウマチセンター長を退職後、2025年4月より北海道美唄市立美唄病院小児科で勤務。小児科研修中にシェーグレン病や若年性皮膚筋炎の患者さんと出会い、膠原病の研究を志す。大阪大学細胞工学センター 岸本忠三教授の下でインターロイキン−6受容体の研究に従事。その後北海道大学小児科で免疫不全症や膠原病の診療と研究を行い、日本初のADA欠損症に対する遺伝子治療に参加。主要研究テーマは[1]多彩な自己免疫疾患を呈する免疫不全症(IPEX症候群)、[2]若年性皮膚筋炎、[3]シェーグレン病など。日本小児科学会専門医・指導医、日本リウマチ学会専門医・指導医・評議員、日本アレルギー学会専門医・指導医。北海道小児膠原病の会の顧問を務める。
●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2025年5月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。
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