北海道小児膠原病の会代表を務める、さくましほこさんの子どもは、小学生のときに小児膠原病の1種である全身性エリテマトーデス(以下SLE)と診断されました。さくまさんに、膠原病をもつ子どもたちの学校生活や北海道小児膠原病の会の活動について聞きました。全2回インタビューの後編です。
※「小児膠原病」は一般的な病名ではなく、小児期の膠原病のこと。北海道小児膠原病の会で使用している言葉。
小児膠原病は、見た目ではわかりにくいため、周囲から理解を得にくい
膠原病は、免疫機能の異常により全身の結合組織に炎症が起こる自己免疫疾患で、関節に炎症が起こる「若年性特発性関節炎」、皮膚、腎臓、肺などさまざまな臓器に炎症が起こる「全身性エリテマトーデス(SLE)」、皮膚と筋肉に炎症が起こる「若年性皮膚筋炎」が多くみられます。
SLEは、大人の膠原病よりも症状の進行が早く、重症化しやすい特徴があり、日常生活では紫外線を防ぐなどの注意が必要です。
――膠原病の子どもたちは、どのように学校生活を送っているのでしょうか。
さくまさん(以下敬称略) たとえば小児膠原病の1種である若年性特発性関節炎の発症は、10万人に10人といわれています。
私が代表を務める北海道小児膠原病の会が2024年5月~6月に調査した「膠原病の小児患者に関する教職員の認識と教職員が患者・家族に開示してほしい情報」によると、「膠原病をもつ子を担当した経験がある」と答えた教員は561名中74名(13%)でした。
「小児期に膠原病を発症することを知っている」と答えた教員は、561名中349名。約40%の教員が「知らない」と回答しました。
膠原病と診断されるとママ・パパから、学校の先生には病気のことや学校生活で配慮が必要な点について説明とお願いをすると思いますが、膠原病は見た目ではわかりにくいので、友だちや周囲の人に理解されにくい課題があります。
たとえば、昨日までは元気だったのに、今日はけんたい感が強くて、朝、ベッドから起き上がれなかったりすることもあります。膠原病について理解が乏しいと、「なまけている」「やる気がない」と勘違いされてしまうこともあるのです。
また炎症が起きて手がもみじのようになっている子がいました。ある日の美術の授業の課題は、自分の手のデッサンでした。その子は、見たまま描いたのに美術の先生から「もみじみたいだな」と言われてしまい、傷ついたというようなケースもあります。
ほかには紫外線を浴びると病勢が増し、校庭に出る前に日焼け止めを塗り直す子もいます。登下校のとき日傘をさしたりしている子もいます。うちの子も、登下校の際に、日傘を使っていましたが、みんなと違うということが、本当につらかったようです。一方で「もう、やりたくない」と言う子もいます。
子どもさんにしたら、みんなと同じがいいという時期なので、「もうやりたくない」と言うのも当然の反応ですが、そうした子どもの言動に悩み、「命を守るために」と必死に言い聞かせる保護者もいます。
体が冷えると、「レイノー現象」といって指先が真っ白や紫色になって痛む症状が出ることもあります。みんなと同じように冷たい体育館の床に座ったりできないこともありますし、ぞうきんなどを冷たい水で洗い、しぼることができないこともあります。寒い季節、ドアノブを触ることがつらいことだってあるんです。
膠原病は、見た目には元気そうなので「なまけている」と思われたり、体のつらさをわかってもらえないことは少なくありません。でも、こうした事情を抱えている子どもたちがいることをわかってほしいと思います。
一方で、合理的配慮の義務化によって、事情を説明すると学校などで受けられるサポートはあります。しかし、大切なのは患者さん自らが言語化して伝えること。「まわりの人に察してほしい」と考えていては、自分のことを守れないということを、子どものうちから知ってほしいと思います。
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付き添い入院で知り合ったママたちと、「北海道小児膠原病の会」を立ち上げる
さくまさんたちが、北海道小児膠原病の会を立ち上げたのは2021年12月のことです。
――北海道小児膠原病の会を立ち上げた理由を教えてください。
さくま 子どもが膠原病の治療で入院していたときにSさん(元・副代表)に出会ったのがきっかけです。先に子ども同士が仲よくなり、そしてSさんと私もいろいろと話をするようになったんです。
Sさんの子どもが再入院したときに「治療から何年たっても、保護者の悩みは変わらない。見とおしがもてなくて不安はつきない・・・。私たちと同じような悩みを、次の世代には背負わせたくない」という話になり、もう1人のママも加わり、2021年12月に北海道小児膠原病の会を立ち上げることになりました。
――活動について教えてください。
さくま 主な活動は、オンライン交流会です。月に1度「休憩の取り方・休暇の過ごし方」「勉強とは?」「おやつ ごはん 食欲」などのテーマを設けて、意見交換したりしています。北海道だけでなく、全国から参加者がいます。
――会では、きょうだい児支援にも力を入れています。
さくま 病気の子どもがいると、きょうだいは影響を受けないわけがないんです。
わが家の場合は、私が初めて付き添い入院をしたとき、下の子の面倒を夫の両親にお願いしました。当時、下の子は小学生と幼稚園でした。私は下の子に「必ずよくなって帰って来るからね!」と言いましたが、不安でいっぱいだったと思います。
下の子が夫の両親に「姉は亡くなってしまうの?」と聞いて「何言ってるの!!」と怒られたことがありました。
下の子は親の様子がおかしいことを敏感に察していて、入院の様子も想像できずに不安だったんだと思います。
当時は娘のことで精いっぱいでしたが、その言葉に気づかされて、下の子たちの心も守らないと! と思いました。
下の子たちには説明したつもりだったけれど、それは子どもたちが知りたいと思っていたことや心配していることとずれていたのだと思います。でも当時は、私自身がきょうだいに何をどう説明すべきなのかわからず、だれにも相談できずにいました。
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治療や症状で登校をしぶるケースも
さくまさんは、北海道小児膠原病の会の活動以外に、登校をしぶる子どもたちの相談支援にも携わっています。
――登校をしぶる子どもたちの相談支援を行っているのはなぜでしょうか。
さくま 不登校の原因はさまざまですが、たとえば病気で治療中の子どものなかには、ステロイドの副作用によって、急に太ったように感じるような体型変化があったり、ムーンフェイスといって顔がお月さまのように丸くなったり、ニキビが出ることもあり、自分で気にしたり、友人からの指摘があったりして学校に行きづらくなってしまうことがあります。また長期の入院や欠席・早退・遅刻が続いて、学校に行きづらくなってしまうケースもあります。
病気を抱えている子どもも、そうでない子どもも一人一人の状況に応じて、子ども自身が自分の思いを言語化できる力が必要だと感じて、子どもたちとかかわっています。
――北海道小児膠原病の会のホームページには、「疾患を持って生きる子どもたちが、自身の可能性を信じて」とあります。メッセージに込めた思いを教えてください。
さくま 膠原病は、ときには病気を理由にがまんせざるを得ないことがあります。そうした経験を幼いうちから繰り返すことで、あきらめることに慣れてしまう子もなかにはいるんです。そうして自分を守っているのかもしれません。
また社会に出て働き出してから、疲れやすかったりして、まわりの人と同じように働けずに自信を失うこともあります。ときには「自分がいけないのかな? 頑張っているけども、熱も出てくるし、つらい」と相談を受けることもあります。
それでも疾患のある子どもが、自分自身の未来にわくわくしながら、日々を過ごしたり、何かにチャレンジしたり、恋愛したり、進学したり、就職したりすることが当たり前になることを願っています。きっとそういう世の中は、疾患のない人にとっても、可能性を感じられる世の中につながるだろうと考えています。
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【小林先生から】将来を見すえて、できることを伸ばす支援を
膠原病の子どもたちは、外見的には頬が赤いくらいしか異常がないため、周囲の理解が得にくいこともあるかもしれません。また、障害を受ける臓器もそれぞれ異なるため、その臓器障害や程度によって運動や日常生活の制限も異なってきます。関節炎を合併すると重いものが持てない、階段の昇降や教室移動がつらいなどの症状が出る可能性があり、学校が配慮してくれることが望ましいと思われます。
また紫外線対策として、長袖着用や体育・運動会の際も極力日陰に入る、冬期は寒冷対策を行うなど、ほかの子どもたちと異なる対応が必要となるため周囲の理解が必要です。
ステロイド薬の長期投与による肥満や低身長などは本人のコンプレックスの原因となったり、いじめの対象となってしまうこともあります。学校などの集団生活における注意点を主治医とよく相談して、担任や養護教諭と情報を共有する必要があります。
まわりの子どもたちにどこまで話すかは状況によりますが、少なくとも親しい友人には「うつる病気ではない」「病気のためにいろいろと生活を制限しなくてはならない」ことは上手に伝え、体がつらくなったときにハッキリとそれを口に出して周囲のサポートが得られるような雰囲気作りが重要です。進学・就職し、結婚して子育て中の患者さんもたくさんおられます。過保護にならず、将来を見すえて自分のできることを伸ばせるよう支援することが大切です。
お話・写真提供/さくましほこさん 監修/小林一郎先生 協力/北海道小児膠原病の会 取材・文/麻生珠恵、たまひよONLINE編集部
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北海道小児膠原病の会のホームページには、小学生の子どもにもわかるように「こうげん病は人にうつすことはありませんし、うつされることもありません」「こうげん病になりやすい体しつはありますが、いでんするものでもありません」「だれかのせいで、何かのせいで、こうげん病になるわけではないのです。だれも悪くありません」と記されています。
さくまさんは「小児膠原病のことを、あらゆる世代の人たちに知ってほしい」と話します。
さくましほこさん
PROFILE
北海道在住。看護師。子どもがSLEを発症し、付き添い入院を経験。その経験から「疾患のある子ども同士、きょうだい同士、保護者同士の集える場の必要性やよき理解者に恵まれる環境づくりの重要性」を考えるようになる。「疾患のあることはマイナスじゃない」と、子ども自身が思い、将来に希望をもち、小児期から疾患のある子どもの社会的自立を願い、2021年 北海道小児膠原病の会を立ち上げ、代表を務める。
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小林一郎先生(こばやし いちろう)
PROFILE
北海道大学大学院医学研究院 生殖・発達医学分野 小児科学分野 客員教授。KKR札幌医療センター 小児・アレルギーリウマチセンター長を退職後、2025年4月より北海道美唄市立美唄病院小児科で勤務。小児科研修中にシェーグレン病や若年性皮膚筋炎の患者さんと出会い、膠原病の研究を志す。大阪大学細胞工学センター 岸本忠三教授の下でインターロイキン−6受容体の研究に従事。その後北海道大学小児科で免疫不全症や膠原病の診療と研究を行い、日本初のADA欠損症に対する遺伝子治療に参加。主要研究テーマは[1]多彩な自己免疫疾患を呈する免疫不全症(IPEX症候群)、[2]若年性皮膚筋炎、[3]シェーグレン病など。日本小児科学会専門医・指導医、日本リウマチ学会専門医・指導医・評議員、日本アレルギー学会専門医・指導医。北海道小児膠原病の会の顧問を務める。
●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2025年5月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。
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