書籍『我が子が発達障害だと分かったら絶対に知っておきたいこと』を出版した、図書館情報学学士の桃川あいこさん。実生活では、発達障害グレーゾーンの子どもを成人まで育ててきたお母さんです。現在は大学生として毎日を楽しんでいる桃川さんのお子さんですが、ここに至るまではとても大変な道のりがあったそう。2回にわたるインタビューの前編では、小さいときから感じていた本人の発達特性、小学校に入ってから大変だったこと、現在のお子さんとの関係など、詳しくお話を聞いていきます。
数字やアルファベットをあっという間に覚えてしまう一方、育てづらさが目立ってきて…
――桃川さんの子育てについてのお話を聞かせてもらえますか?
桃川さん(以下敬称略) わが家には2人の子どもがいますが、上の子どもが発達障害のグレーゾーンだと言われています。
生まれたときから、すごくかわいがって育ててきたんですが、今思えば、1歳代から発達特性が目立っていました。数字やアルファベットにばかり興味が強くて、あっという間に覚えてしまうとか、パズルもすごい速さでできてしまうとか。しかし、当時の私は何も知らず、親ばかが勝っていたと思います。
1歳になる少し前から近所の同年代の親子とつながり、イベントや、リトミックなどの教室に行ったり、公園に行って会ったりするようになりました。すると、1歳の後半辺りから、わが子は極端に家以外の建物に入ることを拒否したり、ほかの子どもを怖がって避けるようになったりといったことが増えてきました。当時の私は孤立しているような、子育てが自分だけうまくいっていないような、そんな感覚がありました。
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自閉スペクトラム症の傾向があると診断。まわりの子どもに壁を作ってしまう小学校時代
――就学前にどこかに子育ての相談はされましたか?
桃川 園で参観日などのイベントを極端に嫌がりはじめたので、先生と度々面談していただいていました。発達障害児の担当経験がある先生だったので、相談先について教えてくださり、年長の秋から療育センターにつながりました。
――具体的にはどういう困りごとがありましたか?
桃川 わが子は発達障害の中でも、自閉スペクトラム症の特性の強い子どもなのですが、自閉症の特性として、「人とのやりとりのしかたを自然に学ぶのが難しい」というものがあります。先に「こういう場面では、相手はこういう気持ちになっているよ」ということをすべて教えないと理解できず、また、相手の行動をとにかく悪くとりやすいところがありました。
――発達障害のグレーゾーンだとわかったのはいつのことですか?
桃川 小学校入学直前のことです。子どものことを療育センターに相談するようになり、そこで先ほどお話ししたように「自閉スペクトラム症の傾向がある」と言われました。ただ、それでも知能面の問題はないから、通常級で頑張ってくださいと言われまして…。幸いソーシャルスキルトレーニング(対人関係やコミュニケーションスキルを身につけるプログラム)を学ぶ塾が見つかって、小学校中学年以降はそこで人へのふるまい方を教わっていました。
――学校への行き渋りはありましたか?
桃川 ありましたね。私もものすごく反省している点なのですが、当時はとにかく根性論が強かったです。「学校に行ったら、それが達成感になるから!」という発想で、引きずって連れて行くこともありました。
――学校での特性への合理的配慮などが言われ出したのは、ずいぶん最近のことですもんね。
桃川 そうですね。今なら、苦手な活動やイベントのときには違う教室へ移動するといった、柔軟な対応をしてくれる学校もあるようです。ただ、10年前はそういった発想が学校側にも浸透していなかったと思います。
わが子は小学校に行っても、クラスメイトと接触を持たないようにしたり、パニックを起こしたり…。つらい過ごし方をして、暗い顔をして帰ってきて。どうしてほかの子と仲良くできないんだろう、楽しいはずのイベントの日に荒れてしまうんだろう…と、わが子の「できないこと」ばかりに注目して、私も本当につらかった。もっと子どもの特性に寄り添って、無理をさせなければよかったと今では思います。
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中学校は私立の中高一貫校へ。本人が変わったように見えたものの…
――中学校はそのまま地元の中学に進学したのですか?
桃川 いいえ。気の合うやさしい同級生が、数は少ないけれどいてくれて、先生もだいぶ気にかけてくださって、一緒に育ててくださった小学校でしたが、本人としては「人間関係を変えたい」、という強い希望があり、中学受験に挑戦することに。中高一貫校へ進学しました。
進学した学校では多種多様な同級生、情熱的な先生たちに出会えて、わが子は積極的になり、自分のやり方でイベントを手伝うようになるなど、うれしい方向へと変わっていきました。
ですが、やはり、にぎやかなタイプの同級生に対して悪意やストレスを抱えがちな特性は変わらなかったんです。その年度によってストレス度合いがだいぶ変わるような状況でした。
高校に上がって、メンタルを崩し、入院に。退院後はぐったりしていたが…
桃川 高校生になって、対人ストレスがかなり強くなったようです。「幻覚が見える」と本人が訴え、さらに登校がつらくなったことをふまえて心療内科へ通い、うつなどの診断を経て入院するまでに至りました。私たちは入院中に面会もできず、非常につらかったです。
――大変な経験をされましたね。
桃川 退院後は強めの向精神薬を処方され、ぐったり眠ってはぼんやり歩き回る状態で…。この子は一生このままなのかと、さまざまな友人に相談しました。そうしたらFacebookでつながっていた知人が、「栄養療法というのがあるよ」と教えてくれました。
栄養療法はたんぱく質を多めに摂取することなどを医師の指導のもと行うもので、うちはそれを4年ほど実践しています。食費がかかるのが大変ですし、人によっては体質的に向いていない場合もあります。
ですが育ち盛りだったわが子とは相性がよかったようで体調もよくなり、時々人づき合いでの悩みもあるようですが、今のところは無事に大学生活を送っています。
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現在は大学生活を謳歌!自分の話をしてくれる機会も増えた
――お子さんが回復されてよかったです!現在のお子さんとの関係はどのような感じですか?
桃川 今はもう成人しているので、対等な話し相手として接しています。私たち親が子どものころに夢中になっていた『キン肉マン』を、わが子の幼いころにすすめたところ、すっかりハマったのですが…。最近アニメの新シリーズが放映されることになり、一緒に見ながら「今回はよかったね」なんて談笑することもあります。
大学でのことはあまり根掘り葉掘りとは聞かないようにしていますが、サークル活動が楽しそうです。「どんなことを最近やってるの?」と聞いたり、「最近、こういう人に出会って、よそのサークルにも行ってきた」といった体験談を話してくれるようになりました。
小さいころから、自分のことを親に話さない子どもだったので、とてもうれしいですし、社会経験を積むことで成長し変わっていく部分も大きいんだなと感じています。
――ほかにも現在のお子さんとの関わりで気をつけていることはありますか?
桃川 「〇〇しなさい」という言い方は、小学生のころにやめました。代わりに、「こうなっているけど、どうしたらいいと思う?」といった聞き方をして、自分で気づき、行動できるよう促しています。というのも、わが子は視野が狭く、言われたこと以外にはなかなか気づけないタイプ。だからこそ、自立に向けて、自分で考え、動ける力を少しずつ育てていく必要があると思っているんです。
自分が自閉スペクトラム症の特性を持つことはすでに小学校の高学年のときに専門家を交えて告知済みですが、特性の話は、ほとんどしません。それで困っているということが今はほとんどなさそうだからというのもあります。
今後、もし特性のことが原因で悩むことが出てきたとしても、「それはあなただからしかたがない」という言い方ではなく、「こういうところが苦手なようだから、ではどのように工夫していこうか」という伝え方で話し合っていこうと思います。
お話/桃川あいこさん 取材・文/江原めぐみ、たまひよONLINE編集部
子育ての中で何が正解だったのかは、すぐにはわからないことばかり。桃川さんも今振り返ると後悔していることも多いと話します。けれども、桃川さんの語る言葉からは「その時々で、わが子にとってベストを尽くそうとしてきた」積み重ねが伝わってきました。発達特性のある子どもと向き合うことは、親にとっても自分を問い続ける日々。だからこそ桃川さんの書籍や経験談が、同じように悩む誰かの支えになるのではないかと感じます。
後編では発売中の書籍『我が子が発達障害だと分かったら絶対に知っておきたいこと』について、発達障害の子を育てる当事者だからこそ工夫したポイントについてお話を聞いていきます。
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桃川あいこさん(ももかわあいこ)
PROFILE
現・筑波大学で図書館情報学を専攻し、情報検索概論、ネットリテラシーを研究。日本アイ・ビー・エムに入社後は、ソフトウエアのQ&Aまとめ文書をノルマの10倍執筆。図書や情報のエキスパートとして活躍してきた。2004年、発達障害の子どもが生まれたことを契機に退職。20年に渡り、わが子に起きている問題について、地域の支援施設・ネット・書籍・学術論文などさまざまなチャネルで情報収集をしている。
●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●掲載している情報は2025年6月現在のものです。
我が子が発達障害だと分かったら絶対に知っておきたいこと
子どもが実際に発達障害と診断されたお父さんお母さんが、最初に読むのにおすすめの1冊。
発達障害の名著100冊から、重要ポイントをまとめているだけあり、今後何をすべきかがわかる内容になっています。専門家の情報をわかりやすく、あたたかい寄り添いの言葉で伝えてくれているので、本が苦手な人にもおすすめです! 桃川あいこ(著)池田勝紀(監修) 1650円/学研
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