たまひよ

小児神経科医の湯浅正太先生の診察室には、困りごとを相談しにたくさんの親子が訪れます。医師として子どもや家族にかかわっている湯浅先生は、子どもの心の成長や親子の幸せにはさまざまな「つながり」が不可欠だという考え方に基づいた「ゆくり学」を提唱しています。今回は先生が診察で出会った「目をパチパチする行動が増えた子」のケースをもとに、子どもの気になる行動とその対応についてのゆくり学の視点からの解説です。


目をパチパチする行動が増えた男の子


「ゆくり」とは「縁」「つながり」を意味する古語のこと。
湯浅先生は、親子、両親間、そして親と社会との「ゆくり」が子どもの心を健全に育てる要と考え、その基本方針として「ゆくり学」を提唱しています。

――湯浅先生のクリニックで、目をパチパチする行動が増えた子どもについて実際に相談があったケースを教えてください。

湯浅先生(以下敬称略) 小学4年生のゆうま(仮名)くんは、小学校入学当時から少しずつまばたきが増えました。小学3年生の夏休みごろにはまばたきの回数がさらに増え、悪化したそうです。しょっちゅう目をパチパチするので、気になった母親は「目、パチパチしてるわよ」「目、パチパチ、やめなさいよ」などと注意をしました。

母親はゆうまくんが目をパチパチする行動について心配し、またどうやって止めたらいいのかがわからずに受診しました。しかし、ゆうまくん自身はまばたきのことをあまり気にしていない様子でした。

母親がもう1つ気にしていたことは、学校の面談で先生から「ゆうまくんは少し空気を読めないところがある」と言われたこと。ゆうまくんはクラスのお友だちとワイワイ楽しみながら遊ぶことがあきらかに苦手だったそうです。昼休みは校庭でお友だちと遊ばずに教室にいることが多いようでした。

――ゆうまくんは「空気が読めない」というストレスからまばたきが増えたのでしょうか。

湯浅 ゆうまくんのように「空気の読みにくさ」がある子どもは、まわりが感じている以上に生きづらさを抱えることもあるものです。自分の何気ないひと言で相手を傷つけてしまい、その結果、自分が怒られるようなことも経験していたのかもしれません。
ゆうまくんのような子の場合、学校のように、集団で同じように行動することを求められる空間では、気を張り過ぎて疲れてしまうのです。

ゆうまくんは診察室で私と1対1で話をしたときには、大好きな電車や車のことを次々に話してくれました。本当は学校でもいっぱいしゃべりたいことがあるのに我慢していたのだろうな、とせつなくなりました。

――先生はゆうまくんの母親にどのようなアドバイスをしましたか?

湯浅 まずは、ゆうまくんのまばたきを注意することをやめてもらうようにお願いしました。まばたきやせきばらいといった「チック症」は、病気というよりも、子どもの心を反映する一種のくせととらえて、どうやってそのくせとつき合っていくかを一緒に考えましょう、と提案しました。

また、外来での様子を見ているとお母さんからゆうまくんに「早くしなさい」「〜はやったの?」などと、口うるさく指摘をする様子が見られました。そういった親から子どもへの過干渉がある場合、子どもは心のゆとりを保つことが難しくなってしまうものです。

そこでゆうまくんの母親には、子どもに指摘しようとする気持ちがわいてきたら、指摘する前にゆうまくんと優しくつながる行動を試してもらうことをお願いしました。たとえば「あなたらしいわね」という言葉でつながってみたり、ゆうまくんの目を見ながら、そっとゆうまくんの腕に母親の手を添えたりしてつながるということです。

母親は「変えてみようかな」とすぐに言ってくれました。そのとき母親は涙ぐんでいました。それほど、本当にゆうまくんのことを心配し、つらかったんだろうと思います。

――その後、ゆうまくんの様子にどんな変化がありましたか?

湯浅 3カ月、6カ月、と経過を追う中で、気づくとまばたきはまったく気にならないほどに改善しました。しかも、学校での先生やお友だちとの会話が増えたそうです。

子どもは精神的な負担を抱えると、何らかの困った行動をすることが日常茶飯事です。そんな行動の裏には何か原因があります。ゆうまくんの場合、まばたきの裏には「空気が読めない」ことによる生きづらさがありました。

そして、それ以外にも、何かにつけ子どもの行動を注意してしまう、親の過干渉がありました。
親の行動を変えることで、子どもの生きづらさがやわらぐ。そういったことがあるものです。積極的にかかわる「ゆくり」もあれば、見守る「ゆくり」もある。そういうものです。1年経過したころに、母親は「実は私自身も、親からこまかく指摘を受けて育ちました。親の行動がこんなに子どもに影響していたんだって、この1年でよくわかりました」と教えてくれました。


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