内科医・和田裕紀子さん(40歳)は、6歳、3歳の2人の男の子の母親です。長男の煌太郎(こうたろう)くんは、重症心身障がい児で医療的ケアが必要ですが、原因不明で診断はついていません。
和田さんに、煌太郎くんの病気の原因を探るために受けた検査のこと、医療的ケアをしていて気づいたことなどについて聞きました。
全2回インタビューの後編です。
最先端の遺伝子解析「IRUD」で原因はわかるのか
煌太郎くんは、生後3カ月から症状の原因を探るため、大学病院でさまざまな検査をしてきました。
――最先端の遺伝子解析を受けたそうです。
和田さん(以下敬称略) 検査をしても病気の原因や病名がわからないときは、最先端の遺伝子解析によって原因や診断の手がかりを探す、「IRUD(未診断疾患イニシアチブ)」という検査があります。全国規模の研究プロジェクトです。
息子も1歳のとき、主治医からIRUDの提案がありました。
IRUDで病名がわかれば前に進めるかもしれませんが、平均寿命などもわかってしまうかもしれません。そのころの私は、息子のすべてを受け入れられる心の状態ではなく、IRUDは、いったん保留にしていました。
ですが、3歳のときに生死をさまよい、奇跡的に回復していく息子のたくましい生命力を目の当たりにして、どんな病気でも受け入れたいと思えるようになりました。そして、IRUDをお願いしようと考えるようになったんです。IRUDを受けようと思えるようになるまで2年ほどかかったことになります。
先日、ようやく結果が出ました。でも、やはり病名はわからなかったんです。医師からは「現代の医学では、判明しない疾患の可能性がある」と告げられました。その言葉を、静かに受け止めるしかありませんでした。
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医療的ケア児の母として、医師として役立つ情報をSNSで発信
和田さんは、煌太郎くんが4歳になったころから、SNSで医療機器の解説や医療的ケアに便利な手作りアイテムなどを紹介しています。
――SNSで、医療的ケア情報などを発信しようと思った理由を教えてください。
和田 最初のころは、SNSの発信は考えてもいませんでした。
しかし在宅で医療的ケアをしていると、医師であっても知らないことが多かったんです。長男と自宅で過ごしていく中で、生活の知恵が大切ということを実感しました。でも医療者はそれを知るすべがなく、SNSで発信しないと、知ってほしい情報が届かないと思ったんです。
私自身も、今、持っている知恵をあのとき担当していた患者さんにお伝えできたら・・・と思うことがあり、SNSでの発信を考えるようになりましたが、なかなか勇気が出なくて・・・。そんな私の背中を押してくれたのが長男です。長男の頑張りを見ているうちに「やってみよう!」と思えるようになりました。
――在宅での医療的ケアで、医師でも知らないことが多かったとは、たとえばどのようなことでしょうか。
和田 医師や看護師は、在宅で吸引カテーテルを使う場合は、使用後アルコール綿で消毒して、入っていた袋に戻し、1日使ったら処分するように指導することが多いです。
でも実際は、袋に入れると使いにくいんです。そこで100円ショップで売っている透明のプラスチックボトルの裏ぶたに、歯ブラシ用のキャッチホルダーを付けて保管する方法をSNSで紹介したりしています。歯ブラシ用のキャッチホルダーに吸引カテーテルを引っかけることで取り出しやすくしました。この方法は、医療的ケア児を育てる方から教えてもらったものです。
また息子は、入浴時、マットの上に寝かせて体を洗っているのですが、その際に、100円ショップで購入した洗濯ネットの中に、タピオカドリンクを飲むときの太いストローを2~3cm幅に切って入れて作った枕を使っています。その枕の作り方もSNSで紹介しています。
これらのことは、私が医師として働いていたときにはまったく知らない情報でした。在宅で医療的ケア児を見るには、医療の知識だけではなく、生活の知恵が必要なんだなと思いました。
訪問看護師さんやコミュニティでつながった、医療的ケア児を育てるママ・パパたちと、知恵や意見を交換し合って、快適な環境の中で子どもの医療的ケアができるようにしたいと思います。
――煌太郎くんと外出するとき、バギー型車いすを使用されているそうですが、そのことについても教えてください。
和田 バギー型車いすは、本体だけでかなり重いです。それに子どもの体重と、呼吸器などの医療機器が加わります。ちなみにわが家の場合は、バギー型車いす本体が約20kgあり、長男の体重が約16kg、総重量は50kgぐらいになります。
バギー型車いすは、ベビーカーと見た目が似ていますし、中にはバギー型車いすが使えるようになるまで、ベビーカーで代用している方もいます。
でも、ベビーカーを代用している場合も、バギー型車いすを使っている場合も、呼吸器などの医療機器があり重いので、普通のベビーカーのようにフレキシブルに扱えないことを知ってほしいと思います。
――バギー型車いすなどを利用している家族を見かけた場合、何かお手伝いできることはありますか。
和田 エレベーターの開閉ボタンを押してくれるだけでも、とても助かります。
これまでは、私自身手伝ってもらうと「すみません!」と伝えていました。ですが先日、車いすの子どもの介助を手伝ったとき、ママから同じように「すみません!」と言われて、「もしかしたら気をつかわせてしまっていたのかもしれない」と感じたんです。これからは笑顔で「ありがとう!」とお礼を伝えたいと思っています。
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“体験”が子どもの心を育てると実感して、NPOの活動にも参加
和田さんは、病気や障がいのある子どもたちとその家族に、ワクワクする“ひととき” を届ける認定NPO法人AYAの活動にも参加しています。
――認定NPO法人AYAでは、どのような活動に参加していますか。
和田 知り合いの医師に誘われて、最近、活動に参加したばかりです。支援する側として、病気や障がいのある子どもと家族が映画館で映画を楽しむ、インクルーシブ映画上映会のボランティア活動に参加しました。みなさん、体調を整えながらこの日を楽しみにしてくれていて、やりがいを感じました。
認定NPO法人AYAは、病気や障がいを理由にあきらめてしまっているかもしれない体験を届ける活動をしていますが、私自身も、息子を見ていて体験の必要性を感じています。
息子は2026年4月から特別支援学校に通い始めましたが、新しい体験によって、本当に表情が豊かになり、自己主張が増えてきました。心の成長を感じます。
AYAの活動にも今度は息子と一緒に参加できればいいな、と考えています。
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すべての子どもたちと家族に“体験”を届ける【認定NPO法人AYA】
“すべての子どもたちとその家族へ人生を彩る体験を届ける”をテーマに、AYAの活動がスタートしたのは、2022年1月。代表理事の医師、中川悠樹先生に、活動に込めた思いや今後の目標などについて聞きました。
――認定NPO法人AYAの活動を始めた背景と、活動に込めた思いについて教えてください。
中川先生(以下敬称略) AYAという名前は、私のおさななじみ「あやちゃん」に由来しています。彼女は幼少期にかかった麻疹(はしか)の後遺症で8歳のとき脳炎を発病して以降、寝たきりの生活になりました。お母さんは、あやちゃんを外に連れ出してあげられなかったことを後悔していて、その姿がずっと心に残り、医師になってからも忘れることができませんでした。実際に、病気や障がいがあっても外出を望むご家族は、96.8%(n=843)にのぼるのに実現できている方はわずか17.2%(n=816)です(※)。家族みんなで一緒に過ごせるひとときを届けたい、体験の選択肢を少しでも広げたいという思いで活動を始めました。
――認定NPO法人AYAの活動頻度を教えてください。また、今まで活動に参加した病気や障がいのある子どもたちは、累計で何人ぐらいいますか?
中川 全国各地で、月数回から多いときには合計30回ほどイベントを開催しています。2026年5月末時点で全47都道府県にて計225回、延べ3万1831名の方々にご参加いただいています。
ご家族からは「初めて家族みんなで映画館に行くことができました」「きょうだいも一緒に参加できてうれしかった」といったあたたかい声が届いています。お子さんだけでなく、ご家族にとっての大切な時間になっているという声も多く、こうした声が私たちの活動の大きな原動力になっています。
――和田さんが、ボランティアで参加したインクルーシブ映画上映会の活動について教えてください。
中川 インクルーシブ映画上映会は、映画館のシアターを貸し切り、照明を少し明るく、音量を控えめに調整して行う特別な映画上映会です。お子さんが声を出したり、動き回ったりしてもまわりを気にせず過ごせるほか、点滴やたんの吸引といった医療的ケアが必要なお子さんも安心して参加できる環境を整えています。医療従事者が同行しているため、映画館側も全面的に協力してくれます。
和田さんのように医療の専門知識を持つ方々がボランティアとして支えてくれていることが、活動の大きな力になっています。
――今後の目標について教えてください。
中川 2027年5月に全国47都道府県で一斉に上映会を行う「インクルーシブ映画Day」の実現を目指しています。病気や障がいのある子どもたちとそのご家族が、全国どこにいても映画館で映画を観ることができる日を作ることが、大きな目標です。
さらに、海外でのスポーツ観戦やテーマパーク体験、旅行など、体験の選択肢を広げていくことにも挑戦し、家族みんなでさまざまな体験ができる社会を目指していきたいと考えています。
※「厚⽣労働省 令和元年度障害者総合福祉推進事業 医療的ケア児者とその家族の生活実態調査報告書」より
お話・写真提供/和田裕紀子さん 協力/認定NPO法人AYA 取材・文/麻生珠恵 編集・構成/仲村教子(entente)、たまひよONLINE編集部
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和田さんの1日は、朝7時の医療的ケアから始まります。煌太郎くんの体調が悪いときは、夜通し、たんの吸引をして、体位を変え、おむつ交換をすることも。ハードな日々を送っている和田さんですが、「息子に支えてもらっているのは私のほう。今、このときを大切に生きることに気づかせてくれたり、何気ない日常が幸せということを教えてくれたり、AYAのメンバーをはじめ、人々との出会いを与えてくれたり・・・。息子は、家族に幸せを運んでくれる存在」だと話します。
「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。
現在AYAは、病気や障がいがある子どもたちと家族5組の海外体験(MLB観戦とテーマパーク)を目指して、クラウドファンディングに挑戦しています。
和田裕紀子さん(わだゆきこ)
PROFILE
金沢大学医学部医学科卒業。呼吸器内科医として総合病院に勤務し、緩和医療チームにも所属。医療的ケアが必要な長男のケアのため離職し、働き方を模索。子育ての中で感じたことをSNSで発信し始める。現在は仲間たちと立ち上げた特定非営利活動法人amuの代表として、医療的ケアや障がいとともにある子どもと家族、そして支える人たちを支援する活動に取り組んでいる。
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中川悠樹先生(なかがわゆうき)
PROFILE
京都大学医学部卒業。消化器外科医・救急医として、ドクターヘリ添乗医、離島医療、スポーツチーム帯同医などを実践。2022年1月に任意団体AYAを立ち上げ、現在、代表理事を務める、細谷腎クリニック藤岡 院長、奈良県立大学 地域創造学部 客員研究員。
●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2026年7月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。
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