「今日、園で何したの?」お迎えのあとわが子に聞いてみても、まだうまく答えられない年齢だと、園でどう過ごしているのかは意外とわからないもの。
楽しそうに遊んでいた。泣いていた。ごはんを食べた。お昼寝をした――。
保護者が知ることができるのは、そんな園での出来事かもしれません。
では、毎日そばにいる園の先生たちは、そのときの子どもの姿から何を見ているのでしょうか。実は先生たちは、「何をしたか」「何ができたか」だけを見ているわけではありません。
「今、何に心を動かしている?」「どうしてこの遊びを繰り返している?」「この子は何を感じている?」
そんなふうに、一見何気ない遊びやしぐさから、その子の興味や思い、育ちを読み取っています。
今回は、玉川大学の大豆生田啓友先生が講師として携わっている横浜市の保育者むけ研修をママライター田中が取材しました。
全国でも多数の保育・教育施設がある横浜市では、保育者が子どもの写真やドキュメンテーション(写真付きの保育記録)を持ち寄り、子どもの姿をどう捉えるかを学び合う研修など、さまざまな研修を行っています。その先進的かつ熱心な取り組みは、たびたび保育業界でも話題になるほど。
先生たちは”子どもを見る視点”についてどんなことを学び、それを日々の保育にどういかしているのでしょうか。横浜市こども青少年局 保育・教育支援課の八木さんに聞きました。
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何気ない「遊び」の中に、先生は何を見つけている?
田中:横浜市の保育者向けの研修では、どんなことを学ぶのでしょうか。
八木さん:横浜市では「園内研修リーダー育成研修」をはじめ往還型研修と呼ばれる実践的な研修に力を入れています。この研修の大きな特徴は、講義を聞くだけではなく、研修で学んだことを園に持ち帰って実践し、その成果や課題を再び研修で他の受講者と振り返るという、園と研修を行き来するスタイルの学びを大切にしていることです。園の中で学びを広げられるリーダーを育成し、園全体の保育の質向上につなげることを目指しています。
田中:講義を聞くだけではないんですね。具体的にはどんなことを学ぶのですか?
八木さん:研修を通して、それぞれがチャレンジテーマを持ち、保育中に撮影した子どもの写真やドキュメンテーション(写真付きの保育記録)を持ち寄って「この子は何を感じていたのだろう」「この遊びの中に、どんな学びがあったのだろう」と、その子の思いや関心を丁寧に見ていきます。
ほかの園の先生と、写真を選んだポイントや、子どもが経験していることなどを語り合い、そこで多様な対話が生まれるので、新しい視点など成果を得ることができます。あわせて、保育の見える化が何のためにされ、何を生み出すのかを学んでいきます。
田中:親だったら「楽しそうに遊んでるな」で終わってしまいそうな写真でも、先生たちは「何に興味を持っている?」「この遊びから何が育っている?」と、その先まで見ているんですね。
八木さん: はい。子どもの遊びの中にある興味や関心を見つけ、保育者がどんなかかわりや環境づくりをするとより関心が深まり、子どもの育ちにつながるかを語り合いながら学んでいきます
田中:子どもの思いに目を向け、かかわりあいかたを考えることに保育者の専門性があるのですね。
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保育のプロもプロに聞いて学ぶ!
八木さん:横浜市では、園内研修リーダー育成研修に、園の保育を公開する取り組みも研修のプログラムに組み込んでいます。
研修の受講園のうち公開保育を実施することに手をあげてくれた園には、保育を専門とする大学の先生が3回訪問し、3回目に公開保育を行います。その公開保育には研修受講者である他園の先生たちが参加し、保育の様子を見ながら、その園の保育について、いいところを見つけたり、子どもの楽しんでいる姿や友達とのかかわりなどを語り合います。
こうして多様な意見が入ることで、これまで気づかなかった自分の園のよさを見つけたり、自分にはなかった視点に気づくことができます。これをきっかけに、自分の園内での職員同士の対話が活発になり、より深く自分たちの保育や子どもたちの姿を見ることにつながったという 声も実施した園からいただいています。
田中:いろいろな先生の目が入ることで、一人の先生だけでは気づかなかったことが見えてくることもあるんですね。
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先生が学んでいることとは
田中:伺っていると横浜市の研修は、先生たちが、子どもの姿を深く見る力が大事だと考えているのですね。
八木さん:はい。横浜市には保育所、幼稚園、小規模保育事業など、1800を超える施設がありますが、それぞれの施設にその歴史や理念を大切にしていただきながら「どの園に通うお子さんにも、質の高い保育・幼児教育を届けたい」と考えています。そのために大切なのは、目の前の子どもの姿を丁寧に見て、その子の育ちや学びを理解することだと考え、研修の中で大切にしています。
また、この考え方は横浜市で策定している「よこはま☆保育・教育宣言」にも表れています。宣言では、「子ども一人ひとりを大切にすること」「子どもの育ちと学びを支える主体的な遊びを大切にすること」「幼保小のつながり(幼稚園、保育園で得た学びを小学校につなげていく)を大切にすること」、この3つを、横浜市が目指す保育・幼児教育の方向性として示しています。
田中:子どもの学びの芽になっていく、主体的な遊びを大切にする考え方は、今の保育でとても重視されていますね。取材するなかで、全国で広がっている実感があります。
八木さん:そうですね。子ども主体を実現するためにも、保育者が一人ひとりの子どもを丁寧に見る力を養うことが大事だと考えています。
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園の中だけではない。子どもを見る「プロの目」を、地域にも広げる
田中:こうした先生たちの学びは、園の中だけでなく外にもよい効果があるのでしょうか。
八木さん:はい。この研修での学びを、園内だけでなく地域にも広げていきたいと考え、研修を受けた保育者の中から、「保育・教育質向上サポーター=Yサポ(ワイサポ)」として活躍する人材を育成する取組も新たにスタートしています。Yサポは、地域の様々な園を訪問しながら、研修で学んだ保育実践の振り返りや対話の楽しさを共有し、園同士が学び合える場をつくる活動をしています。
また、横浜市に56ある公立保育園が、地域の保育・教育施設をつなぐ役割を担う「ネットワーク構築事業」も行っています。地域内の保育・教育施設の皆さんが連携して、自分たちの保育の質を高めるため研修を行うとともに、地域の子育て支援のためのイベントなども行っています。
今、子育ては社会全体で支えるものだと言われています。そのためにも、施設の種別に関係なく地域全体で子どもたちの育ちを支えていく、そんな土台として大事にしています。
田中:先生たちが、地域の保育をつなぐ役割もしてくれているのですね。子育ては親だけがするものではない、地域全体に子育てを支える意識があれば、保護者ももっと気持ちが楽になる気がします。
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「家ではこんな姿です」も、先生に話していい
田中:今日お話を伺って、保育者は「お世話をする人」ではなく、「一人ひとりの子どもの思いを丁寧に見て育ちを支える専門職」なのだと感じました。子どもを預ける保護者に伝えたいことはありますか?
八木さん:保育園や幼稚園の先生たちは、子どもたちのために自分たちの保育を良くしていこうと本当によく学んでいます。研修だけでなく、日々の保育の中でも子どもの姿をよく見ながら、よりよい保育を考え続けています。
どうか安心して、信頼してお子さんを預けていただきたいと思います。そして、ご家庭でのお子さんの様子もぜひ共有していただけたらと思います。お子さんにとって園が安心して自分の気持ちを表現したり挑戦できる場となるよう、園と家庭、地域や行政、みんなが一緒になって子どもの育ちを支えていけたらうれしいです。
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大豆生田先生に聞く。「できた・できない」だけで子どもを見ないということ
保育者の専門性は、子どもの姿を丁寧に観察し、その意味を考えることから始まります。子どもが何に興味を持ち、何を感じていたのか。写真や記録を手がかりにして振り返り、保育者同士で対話を重ねることで、その理解は深まっていきます。今回紹介した横浜市の研修も、まさにそうした学びを大切にしている取り組みです。
そのとき大切なのは、子どもを大人の基準で評価しないことです。子どもがのびのびと自分を表現できるように、「できた・できない」で見るのではなく、子どもが見ている世界を、子どもの目線で見て理解する。それが子どもの育ちを支えることにつながります。
近年は、写真やドキュメンテーションを活用して保育を振り返る取り組みが全国に広がっています。保護者に共有する園も増え、園と家庭が子どもの育ちについて語り合う機会にもなっています。保育者、保護者、地域の人たちが子どもの姿を一緒に見つめることで、子どもの育ちを支える輪はさらに広がっていくのではないでしょうか。
取材・文/田中あすか、たまひよONLINE編集部
●記事の内容は2026年7月の情報であり、現在と異なる場合があります。
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<次回のテーマ>
次回は、「小さな子を保育園に預けるのはかわいそう?」保護者が気になるポイントを大豆生田先生と保育園に取材します
<保育ドキュメンテーションとは?>
写真と文章でつづられた「園生活の記録」で、本来は園内の記録や計画のためのツールです。
同時に保護者にも共有することで、子どもが何に心を動かし、興味を持っているのかを、保育者の専門的なまなざしを通して伝えることができます。
普段知ることのない園での子どもの表情を見たり、思わぬ育ちに気づいたり。
わが子の新しい一面を発見するきっかけになります。
<取材先>
横浜市こども青少年局 保育・教育支援課 人材育成係
横浜市内の保育所、認定こども園、幼稚園などの保育・教育施設職員に向けた研修や人材育成を担当。保育の質向上を目的に、園内研修リーダー育成研修、Yサポ(横浜市保育・教育質向上サポーター)事業、園内研修・公開保育の推進などに取り組んでいる。
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